XL650V TRANSALPとは
1991年10月16日、前車ゼルビスが発売される12日前に同じくホンダから1台のバイクが発売されました。その名はトランザルプ(XL400VN)。オンロードとオフロードの2つの領域を楽しめる意味を表す「デュアルパーパス(マルチパーパス)」というジャンルのバイクで、欧州に市場を持つ トランザルプ(XL600V)を、日本の免許制度を考慮して、排気量を600ccから400cc(BROS-P2系)にして発売されたものでした。400ccなのに最高出力37馬力に車両重量201kg。パワー不足、重いというのがバイク雑誌のインプレ記事を読んだ最初の印象でした。
その後、1994年にモデルチェンジ(XL400VR)を行われたものの、「最高出力がいかに大きいか」でバイクの人気が左右されてしまう日本ではあまり受け入れられず、不人気車として消えていきました。
このトランザルプ、日本ではあまり人気が出ませんでしたが、欧州では1987年の発売以来ベストセラーを続けているそうです。数カ国では警察用車両(白バイ)としても採用されており、その姿はリュック・ベッソン監督の映画「TAXI」中でも見ることができます。
そして、1987年の発売(西欧)から13年が経過した2000年、フルモデルチェンジされたのが「XL650Vトランザルプ」です。排気量が従来の600ccから650ccにアップされ、ボディも旧型の特徴を残しながら、よりスタイリッシュなものとなりました。
TRANSALPという名前
アルプス越え「Trans Alps」を意味する造語。日本で発売されていないのでカタログもドイツ語版、英語版、フランス語版しかありません。うち、英語版を読んでみましたが、ネーミングの詳細については特に記述されていませんでした。
※2001年モデルからハンドガードの色がグレーからブラックになりました。
※2005年モデルからウィンカーレンズが、クリアタイプになりました。
ライディングポジションと足つき
基本的にはオフロードバイクのような直立した殿様乗りスタイルになるのですが、外国人向けに作られているせいか、一般的な日本人の体格だとほんの少しハンドルが遠いため、ごくわずかに前傾姿勢になります。高速道路やワインディングを走ることも考えると丁度良い具合です。ハンドル周りは余裕があるので、もしポジションを改善したい場合はハンドルスペーサーを追加することで対処できると思います。
足つきについては、身長約170cmの私だと、両足を着くと足の指から土踏まずの手前までが地面につきます。そして片足をステップにつくと、もう片方の足はつま先から踵までベッタリ地面につきます。あまり足つきが良いとは言えないので停止する際は路面の状況に気をつける必要があります。こちらももし気になるようであればシートのクッション研磨等により改善することができます。
シートの高さ、そして直立した姿勢によって視点が高くなることから乗車時の視界はかなり広く、前後左右の状況も把握しやすくなるため、前車ゼルビスに比べて余裕を持った運転ができるようになりました。
※2005年モデルから購入時にノーマルシートかローダウンシート(-3cm)のどちらかを選べるようになりました。
メーター・スイッチ類
スピードメーターとタコメーターの間の上部にあるのは油圧警告灯とニュートラル、ハイビーム、HISSインジケータで、両端にあるのがウィンカーインジケータです。タコメータの中には液晶時計が埋め込まれていて重宝しています。これらの計器類を挟むように燃料計と水温計が配置されています。個人的には、左右対称にうまく配置したこのデザインが気に入っています。唯一気になるのは、メーターパネルの角度がやや浅く、西欧人に比べて小柄な日本人の場合、相対的に胴の短くなるので背後の空がメーターレンズに映りこんで見にくいときがあることでしょうか。元々、外国人向けに設計されているバイクなのかもしれません。これらに加えて、サイドスタンド警告灯とツイントリップメーターが付いていたらもう言うことはありません。
スイッチ類は、ハンドル左部にはウィンカースイッチ・ライトHi-Lo切換ボタン、パッシングスイッチ、ホーンボタン、そしてチョークレバーが配置されています。盛りだくさんな左部とは逆に右部はキルスイッチとスタータボタンの2つだけと至ってシンプルです。何かスイッチを追加するときはこちら側の方がよさそうです。
※2004年モデルからヘッドライトが常時点灯式となりました。
※2005年モデルからメーターパネルのデザインが新しくなりました。
積載性
トランザルプには標準でリアキャリアが装備されています。ここに収まるサイズの荷物であれば問題ないのですが、ツーリングバック等大きな荷物をリアシート部分も使って固定しようとした場合、サイドグリップがないため、ロープやネットを引っかけられず積載が困難となります。
これは、欧州では日本と違い、リアシートは荷物を載せる場所でなくタンデムするためのものであり、荷物の積載はトップケースやサイドケースを取り付けるのが一般的だからなのかもしれません。もちろん、それらはオプションで用意されていますし、GIVIやクラウザー等の汎用品も専用フィッティングパーツが用意されているので、それらを利用すれば積載に悩むことはないでしょう。
収納性
イグニッションキーでシートのロックを解除するとシートが外れて収納ボックスが現れます。見ためは小さいのですが、見えている部分は収納スペースのほんの一部で、そこからシート左側のカウル内側へと大きく広がっています。同じようにシート下に7リットル容量の収納ボックスがあった前車XELVISに積んでいたもの(レインウェア、レイングローブ、ブーツカバー、追加工具、予備パーツ、バーロック、温泉タオル等)をすべて入れてもまだ余裕があったので容量はそれ以上あることになります。カタログの写真では入口の小さい部分しか写っていなかったので期待していなかったのですが嬉しい誤算でした。
収納ボックスの少し後ろ、リアタイヤの丁度上あたりにはバーロックが収納できるように窪みができています。段差などで踊らないようにちゃんと固定用のゴムバンドがついてたりもします。当初、専用のバーロックでないとサイズが合わないとの話を聞いていたのですが、たまたまうちにあったバーロックをためしてみたところ、ぴったり合いました。内幅が12~14cmくらいのものであれば汎用品でも問題なく収まるでしょう。さらに、その後ろ、テールカウル内部にも車載工具、ウェス等が入るくらいのスペースがあります。
燃費と航続距離
前車XELVISにはついていなかった憧れの燃料計(写真左)がトランザルプには付いています。全容量19.6L、うち3.6Lがリザーブ(切替コックなし)で赤い部分がそれに当たります。自動車や他のバイクの例に漏れず、最初は針の動きが鈍く、量が減ってくるにつれて動きが速くなっていきます。さらにリザーブ域に入ると路面の傾斜によっては「E」の位置を指したりして不安になることも。ですので、リザーブになる前に給油するよう注意しています。
大排気量バイクの場合、高速走行すると燃費がよくなるという話を聞きますが、トランザルプには当てはまりません。巡航速度を上げれば上げるほど悪くなってきます。同じTRANSALPライダー「みさぷぅ」さんもおっしゃってましたが60~80kmで走っているときの燃費が一番良いようです。のんびりペースで走るのが好きな私には丁度いい感じです。別ページに購入時から今までのXL650Vの燃費をアップしていますので、よければそちらも参考にして下さい。航続距離は250km~400km(リザーブ分除く)。
他に特徴として、取り外せてしまうタンクキャップ。取り外せることによるメリットは全くなく、給油時はいつも置き場に困ってしまいます。そのキャップを開けて中をみると蓋付きの仕切り(※)があります。
※TRANSALPライダー「松本信男」さんによると、この蓋はTUV(Technischer Uberwachungs-Verein)ラインランドという技術検査機関が規定している防爆蓋とのことです。仕向地によっては付いていなかったりするそうで、付いていた私はちょっと得した気分。
動力性能
トルク重視のバイクだけあって、アクセルを開けなくてもクラッチをゆっくり繋げばエンストすることもなくトコトコ走り出します。加速は勢いよくというよりもスルスルと加速していく、そんな感じです。
5速2600rpmでスピードメーターは60km/h、3000rpmで70km/hを指します。その後はエンジン回転数が500rpm上がるごとにほぼ10km/hずつ速度が上がっていきます。そして160km/hを超えたあたりから加速がやや鈍ってきます。カタログ値では最高速度169kmとなっていますが、実際はそれ以上、おそらく190kmあたり(メーター読みで)までは出るようです。しかし、日本の公道でそんなにスピードを出せる道路はありませんし、100km前後で流れる高速道路をこんな速度で走るのは危険なだけ。かっ飛びは他のバイクにまかせて、のんびりと走っているのが似合うバイクです。
形式 | RD10 | 点火装置形式 | フルトランジスタ式バッテリー点火 |
全長 | 2260mm | 潤滑油容量 | 2.9L |
全幅 | 920mm | 燃料タンク容量 | 19.6(Res3.6)L |
全高 | 1315mm | クラッチ形式 | 湿式コイルスプリング |
軸距 | 1505mm | 変速機形式 | |
最低地上高 | 186mm | 変速比(1速) | 2.500 |
シート高 | 841mm | 変速比(2速) | 1.722 |
車両重量 | 211kg | 変速比(3速) | 1.333 |
乾燥重量 | 196kg | 変速比(4速) | 1.111 |
乗車定員 | 2人 | 変速比(5速) | 0.961 |
エンジン形式 | RD10E | 減速比(1/2次) | 1.763/3.200 |
エンジン種類 | 水冷4サイクルSOHC6バルブV型2気筒 | フレーム形式 | セミダブルクレードル |
総排気量 | 647cc | トレール量 | 108mm |
内径×行程 | 79.0mm×66.0mm | フロントタイヤ | 90/90-21 54S |
圧縮比 | 9.2 | リアタイヤ | 120/90-17 64S |
最大出力 | 53ps/7500rpm | ブレーキ形式(F) | 油圧式ダブルディスク(256mm) |
最大トルク | 5.61㎏-m/5500rpm | ブレーキ形式(R) | 油圧式シングルディスク(240mm) |
最高速度 | 169km/h | 懸架方式(F) | テレスコピック式 |
始動方式 | セルフ式 | 懸架方式(R) | スイングアーム式(プロリンク) |